

ナスを掲げて走る人たち
「ナスを持って走っている変な人たちがいる…」
墨田区に住んでいた2022年。まだ、ほとんどの人がマスクをして外出するのが当たり前だった頃、スーパーへ買い物に行く途中にけっこうヤバめな集団を見かけた。スーパーでの買い物を済ませ、帰りの道中でもまた遭遇した。

ナスを持って走る怪しい集団 2022年撮影
なんとなく「これは、撮っといた方がいいかも。」と、思った。
とりあえず、スーパーで買った食材を冷蔵庫に押し込んで、カメラを引っ張り出してチャリで”例の集団”を追いかけることにした。
寺島なすで地域をつなぐ
そもそも、なぜナスを持って走っているのか。
金色のトーチの先に載っているのは、東京都墨田区ゆかりの伝統野菜「寺島なす」。江戸時代、現在の墨田区東向島周辺にあたる寺島村で栽培されていたナスだ。小ぶりで、ころんとした見た目が特徴。かつては江戸の食卓を彩っていたものの、都市化などの影響で栽培が途絶え、長い間、地域から姿を消していた。そんな寺島なすを復活させ、地域の歴史や文化とともに次の世代へつないでいこうと、地域の人たちがさまざまな活動に取り組んでいる。そのひとつが「青果リレー」だ。
寺島なすを某スポーツの祭典の”聖火リレー”のように手渡しながら、人から人へと思いをつないでいく取り組みだ。地域のお店や工場、高齢者施設などを青果で繋ぎ、走る人もいれば、沿道で応援する人もいる。そこに集まる人たちの表情や、ナスを手にした姿は、なかなかに個性的である。
地域に根付いた野菜をきっかけに、人が集まり、つながり、その土地の歴史に目を向ける。青果リレーには、そんな面白さがある。
今年で10回目を迎える青果リレー
私は2022年から青果リレーの様子を撮影しているが、プロジェクトは2017年にスタートして今年で10回目を迎える。
今年はメディア取材も相次ぎ、テレビ東京のアド街ック天国や、読売新聞、産経新聞等でもその取り組みが紹介された。
個人的には、毎週欠かさず楽しみに見ているアド街で写真を使ってもらえたことが嬉しかった。放送後の青果リレーでは、道中で「アド街みたよ」の声も多く聞かれた。

トーチキスで寺島なすを次のランナーに繋ぐ
回を重ねるごとに協力してくださるお店や施設がだんだんと増えていき、今年は1日で40ヶ所ほどのポイントを巡った。撮影は自転車でついていくのだが、1日に100回くらい自転車を乗り降りしているので足がパンパンになる。私は自転車だからまだいいが、全行程を走って付いていくメンバーもいて、その体力には驚かされる。





アンカーは山本区長
正直、なんで毎年撮り続けているのか自分でもよくわからない。でも、毎年秋になると、「そろそろ青果リレーの季節だなあ」とか「あそこの施設のおばあちゃん、元気にしてるかなあ」とか気になって毎年参加させていただいている。
4回目の撮影になった今年、過去のデータと今年のデータを見比べて気がついたことがある。それは、撮り続けたことで街や人の変化が記録されつつあることだ。「毎年参加しているこの子、背が大きくなったなあ」とか「ここのお店、狭い路地だから光が入りづらいけど、今年は向かいの建物が取り壊されてめっちゃ光が入るなあ」とか、まだ数年の撮影なので細かすぎる変化だが、撮りためた写真がアーカイブになり始めているのを感じた。
そう考えると、青果リレーを撮ることは、単にイベントの記録を残すだけではなく、この街の時間を記録することでもあるのかもしれない。
10年くらい撮影を続けたら何か見えてくるかも、と少しワクワクしている。
